Rentosertib(ISM001-055/TNIK阻害薬):AI創薬発IPF治療候補のPhase 2a成果と今後
Insilico MedicineのRentosertib(ISM001-055)はAI創薬発のfirst-in-class TNIK阻害薬。GENESIS-IPF Phase 2aで12週FVC +98.4 mL vs プラセボ −20.3 mL(*Nat Med* 2025)。機序・臨床・競合を解説。
はじめに:AI発IPF治療薬がPhase 2aを突破した意義
2025年6月、Nature Medicine はInsilico Medicineの経口TNIK阻害薬 Rentosertib(開発コード ISM001-055/INS018_055) のPhase 2a試験(GENESIS-IPF)の結果を査読付きで公開した[1]。ターゲット(TNIK)と化合物(ISM001-055)の双方を生成AIプラットフォームで同定・設計した薬剤が、IPF対象の12週間・71例・安全性主要評価試験で、TEAE発生率はプラセボと概ね同程度ながら、FVC副次評価項目に良好なシグナルを示したこと(初期臨床PoC)は、創薬業界に二重の意味を持つ。
第一に、Pirfenidone/Nintedanibに続く作用機序の新規クラスがIPFに加わる可能性。第二に、生成AI創薬のバリデーション事例として、後続のAI発化合物の開発判断にも影響する。本稿ではRentosertibの作用機序、臨床データ、競合環境、前臨床評価の視点を公開情報に基づき整理する。
1. 化合物プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名(USAN) | Rentosertib(2024年1月命名) |
| 開発コード | ISM001-055、INS018_055 |
| スポンサー | Insilico Medicine(香港/米国/蘇州) |
| モダリティ | 経口低分子、ATP競合型 TNIK 阻害薬 |
| 適応 | 特発性肺線維症(IPF) |
| 開発ステータス | Phase 2a完了(GENESIS-IPF/中国, NCT05938920)、米国Phase 2a進行中(NCT05975983、最大40例、ClinicalTrials.gov上は2026年2月primary completion登録のままRECRUITING=実完了・結果公表は未確認)、経口Rentosertibは2026年下半期にPhase III開始予定、吸入製剤は中国CDE IND clearance取得(2026-04-28 Insilico発表、Phase I計画) |
| 特記事項 | ターゲット・リード化合物ともにAIプラットフォーム(PandaOmics/Chemistry42)で同定された最初のIPF治療候補 |
InsilicoはPandaOmicsで多層オミクスと知識グラフからTNIKをIPFターゲットとして抽出し、Chemistry42で30超の生成モデルを並列に走らせてINS018_055を選出した。ターゲット同定から前臨床候補指名まで約18か月、Phase 1到達まで約30か月と、従来の半分以下のタイムラインで進行したと報告されている[2]。
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2. 疾患背景:IPF治療の残存アンメットニーズ
IPFは肺胞上皮の反復損傷と異常修復により筋線維芽細胞が蓄積し、進行性の呼吸機能低下をもたらす慢性肺線維症である。従来の主要抗線維化薬であるPirfenidoneとNintedanibはいずれもFVC低下速度を約50%遅らせる効果が示されているが、疾患の進行停止や逆転は達成できていない[1]。さらに消化器症状・肝機能障害などにより、実臨床での長期継続率は高くない。2025-10-07にはNerandomilast(Jascayd、PDE4B選択阻害)がIPFでFDA承認され(PPFは2025-12-19承認)、新たな承認選択肢として治療シークエンスに加わりつつある。
この臨床的未充足を背景に、既存SOCとは異なる分子機序で線維化を抑制する追加/代替薬の開発が望まれている。RentosertibはこのギャップにWnt/TGF-βクロストークを直接遮断するという独自のアプローチで参入する。
3. 作用機序:TNIKが担うWnt/TGF-β/Hippoクロストーク
TNIKの生物学
TNIK(TRAF2 and NCK Interacting Kinase)は GCK ファミリーの Ste20 型セリン/スレオニンキナーゼで、Wnt/β-catenin・TGF-β/SMAD・Hippo/YAP-TAZ・JNK・NF-κB の複数経路のハブとして機能する[2]。従来は大腸癌でTCF4/β-catenin転写複合体の必須コアクチベーターとして研究されてきたが、IPFターゲットとしての報告はPandaOmicsによる抽出以前にはほぼ存在しなかった。
線維化におけるTNIK遮断の効果
RenらのNature Biotechnology 2025論文(Epub 2024-03-08)によれば、TNIKノックダウンおよびISM001-055による阻害は、TGF-β誘発EMT(フィブロネクチン・N-カドヘリン発現、p-SMAD2/p-FAK)を減弱させ、β-cateninの核内/クロマチン局在を用量依存的に抑制した[2]。これはWnt-TGF-β クロストークを筋線維芽細胞レベルで遮断することと整合する。
既存SOCとの差別化
- Pirfenidone: 複数経路への弱い抑制(MOA不明瞭)
- Nintedanib: PDGFR/FGFR/VEGFR 受容体型チロシンキナーゼの多標的阻害
- Rentosertib: Wnt/TGF-β の下流共有ハブであるTNIKを直接阻害
作用点が既存薬と重ならないため、併用療法としての開発余地も理論上残されている。
4. 臨床エビデンス
Phase 1(健常者)
ニュージーランドでSAD/MAD合計78例の健常ボランティアを対象に10コホートで実施。忍容性は良好で、経口投与後のPKプロファイルが1日1回投与を支持する結果だった[2]。
GENESIS-IPF Phase 2a(NCT05938920)[1]
- デザイン: 中国22施設、無作為化二重盲検プラセボ対照、12週投与
- 対象: 特発性肺線維症 71例
- 群構成: プラセボ(n=17)/30 mg QD(n=18)/30 mg BID(n=18)/60 mg QD(n=18)
- 主要評価項目: TEAE発生率(安全性/忍容性)
- 主な副次評価項目: PK、FVC、DLCO、FEV1、Leicester Cough Questionnaire、6MWD、急性増悪・入院
主要結果
| 評価項目 | 60 mg QD | プラセボ |
|---|---|---|
| TEAE発生率(主要EP) | プラセボと同等、多くは軽度〜中等度 | — |
| FVC変化量(12週) | +98.4 mL | −20.3 mL |
| 血清プロテオミクス(線維化指標) | COL1A1/MMP10/FAP/FN1 有意低下、IL-10 上昇 | — |
血清バイオマーカー変化(COL1A1/MMP10/FAP/FN1低下)はΔFVCと有意な逆相関を示し、バイオマーカー-臨床効果連関を探索的に支持する[1]。Phase 2aは安全性主要評価・小規模・12週試験のため、TEAE発生率はプラセボと概ね同程度だったものの、治療関連AEや肝毒性・下痢による中止例が報告されており、特に60 mg群の長期安全性は未確立で、Phase 3規模・長期試験での確認が必要である。別解析でQureightのAIベースHRCT解析も線維化指標の改善傾向を示した[3]。
後期開発計画
Insilicoは2025年Q4にPhase 3(中国、約500例以上)とPhase 2b(米国、約200例以上)の開始を公表していた[4]が、2026-04-28の Insilico プレスリリース では、経口Rentosertibの Phase III は2026年下半期開始予定、加えて吸入製剤が中国CDE IND clearance を取得(Phase I計画、健康成人+IPF患者対象、~80例)と更新されている。並行して 米国Phase 2a(NCT05975983、米国12施設・8州、最大40例、INS018_055) がClinicalTrials.gov上はRECRUITINGのまま登録されており(last update 2025-11-12、primary completion 表記は 2026-02-28 のまま更新なし、実完了・結果公表は未確認)、会社見通しと登録情報は分けて読む必要がある。
5. 競合パイプライン
IPF後期パイプラインはMOAの多様化フェーズに入っている。Rentosertibの立ち位置を整理する。
- Nerandomilast(BI 1015550、Boehringer Ingelheim、商品名 Jascayd): PDE4B選択阻害、FIBRONEER-IPF / FIBRONEER-ILD Phase 3成功、IPF 2025-10-07、PPF 2025-12-19にFDA承認(中国NMPAも2025-12-10でPPF承認)。新たな承認選択肢として、既存抗線維化薬との併用・シークエンスが検討される段階にある。
- Admilparant(BMS-986278、Bristol Myers Squibb): LPA1受容体拮抗、ALOFT-IPF Phase 3(NCT06003426、完了見込み2026-10)進行中。
- Bexotegrast(PLN-74809、Pliant Therapeutics): αvβ6/αvβ1インテグリン阻害、Phase 2b/3 BEACON-IPF(NCT06097260)は2025年3月3日にDSMB勧告で中止(CT.gov上 TERMINATED、primary completion 2025-04-04 で 320例登録完了)。初期発表ではIPF関連有害事象のプラセボ群との不均衡(安全性シグナル)と説明され、早期FVC efficacy signalは観察されていたが、2025年6月の full data review では unfavorable risk-benefit profile と判断され、IPF開発全体が中止された。
- Buloxibutid(C21、Vicore Pharma): AT2受容体アゴニスト、ASPIRE Phase 2b進行中。
- ENV-101(Taladegib、Endeavor BioMedicines): Hedgehog/SMO阻害、WHISTLE-PF Phase 2b進行中。
公開情報で確認できる範囲では、TNIK選択的阻害薬としてIPF臨床開発に進んでいる化合物は現時点でRentosertib以外に特定されておらず、クラス内first-in-classの位置を保っている。
6. 前臨床評価の視点
Renら(Nat Biotechnol 2025, Epub 2024)の前臨床データは、ブレオマイシン誘発マウス肺線維症モデルを主軸としている[2]。
- 経口投与 3 mg/kg BID で線維化面積を約50%、10/30 mg/kg BID で約75%低減
- Penh(呼吸機能指標)改善効果はNintedanibと同等
- 吸入投与ルートでも効果を示し、投与経路の柔軟性を確認
- 皮膚/腎の線維化モデルでも抗線維化作用を報告(組織横断的MOA)
IPF治療候補の前臨床評価では、ブレオマイシン肺線維症モデルが依然として業界標準である。モデル選定の実務的な落とし穴についてはブレオマイシンモデルの落とし穴、評価指標の選択はヒドロキシプロリン定量・Ashcroftスコアも参照。
7. 今後の注目ポイント
- Phase 3読み出しの時期と規模: 12週のFVC改善が52週以上の長期でも持続するかが、真の臨床的価値を決定する。
- 既存SOCとの併用開発: MOAが重ならない特性を生かし、Nintedanib/Pirfenidone併用アームが加わるか。
- AI創薬プラットフォームの再現性: 後続のInsilico候補、および競合AI創薬企業の候補が同様のタイムライン短縮を実現できるか。
- バイオマーカードリブンの患者選択: 血清COL1A1/FAP/FN1等がPhase 3でエンリッチメント戦略に組み込まれるか。
- グローバル開発の統合: 中国・米国で並行する開発の規制上の合流(FDA/NMPA)パスが注目される。
参考文献
1. Xu Z, et al. A generative AI-discovered TNIK inhibitor for idiopathic pulmonary fibrosis: a randomized phase 2a trial. Nat Med. 2025. Nature Medicine / PubMed 40461817 / ClinicalTrials.gov: NCT05938920
2. Ren F, et al. A small-molecule TNIK inhibitor targets fibrosis in preclinical and clinical models. Nat Biotechnol. 2025 (Epub 2024-03-08). Nature Biotechnology / PubMed 38459338
3. Drug Discovery News. Qureight analyses of Insilico Medicine's Phase IIa rentosertib data support preliminary efficacy results and future trial expansion. 記事
4. Genetic Engineering & Biotechnology News. Insilico Eyes Q4 Start for Late-Stage Trials of IPF Candidate. 記事
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