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  3. 【MASH動物モデル比較】AMLN食 vs GAN食:どちらを選ぶべきか?
記事
公開: 2026-04-29
読了目安 約5分

【MASH動物モデル比較】AMLN食 vs GAN食:どちらを選ぶべきか?

FDAのトランス脂肪酸規制により世代交代が起きたMASHモデル。旧来のAMLN食と、現在の主流であるGAN(Gubra-Amylin NASH)食の違い、線維化ステージ(F2/F3)への到達期間、腫瘍形成リスクなどの詳細な使い分けを徹底比較します。

Fibrosis-Inflammation Lab 編集部 監修
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目次
  • MASHモデルの転換点:なぜAMLN食は消え、GAN食が台頭したのか?
  • 1. 突然の「供給停止」:背景にあるFDA規制
  • FDAによるトランス脂肪酸(PHOs)の排除
  • 2. GAN食の開発:単なる「代替」ではない進化
  • 組成の比較:Trans FatからSaturated Fatへ
  • 3. AMLN vs GAN:表現型(フェノタイプ)の徹底比較
  • ① 体重増加とインスリン抵抗性(代謝異常)
  • ② 肝線維化ステージ(F2/F3)への到達スピード
  • ③ 肝細胞癌(HCC / 腫瘍形成リスク)への伸展
  • 4. 私たちの見解:災い転じて福となす
  • CROへの委託時のポイント
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MASHモデルの転換点:なぜAMLN食は消え、GAN食が台頭したのか?

MASH(代謝異常関連脂肪性肝炎)の非臨床試験において、現在では最も標準的な食餌性モデルの一つとなっているのがGAN (Gubra-Amylin NASH) 食モデルです。

しかし、2018年以前は、その前身であるAMLN (Amylin Liver NASH) 食が広く使われていました。なぜAMLN食からGAN食への「強制的な移行」が起きたのでしょうか?そして、この移行はモデルの評価系にどのような影響を与えたのでしょうか?本記事では、これら2つのモデルの詳細な比較と、研究目的に応じた適切な解釈を解説します。


1. 突然の「供給停止」:背景にあるFDA規制

2018年頃、世界中のNASH研究者の間で激震が走りました。「長年使用し、過去データの蓄積があるAMLN食(Research Diets D09100301)が製造中止になる」という事態です。 その原因は、実験動物業界の中ではなく、米国食品医薬品局(FDA)の規制決定にありました。

FDAによるトランス脂肪酸(PHOs)の排除

2015年、FDAは「部分水素添加油脂(PHOs:Partially Hydrogenated Oils)」を「安全とは認められない(not GRAS)」と最終決定し、2018年6月以降の食品への使用を原則禁止しました。

AMLN食の肝障害誘発および肥満誘導の主役は、PHOsの一種であるPrimexショートニング(トランス脂肪酸含有)でした。ヒト食品市場からのPHOs完全撤退に伴い、この原材料の入手が不可能となり、代替モデルの開発が急務となったのです。


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2. GAN食の開発:単なる「代替」ではない進化

この規制ショックに対応してGubra社とResearch Diets社が共同開発したのが、GAN (Gubra-Amylin NASH) 食(D09100310)です。 トランス脂肪酸の代わりにパーム油(飽和脂肪酸)を使用することで、AMLN食と同等以上のMASH誘導能を持つモデルを構築しました。

組成の比較:Trans FatからSaturated Fatへ

成分AMLN食 (D09100301)GAN食 (D09100310)
Protein (kcal%)20%20%
Carbohydrate (kcal%)40%40%
Fat (kcal%)40%40%
Total kcal/gm4.494.60
主要脂肪源Primex II ショートニングパーム油 (Palm Oil)
トランス脂肪酸有り (18.5% kcal)無し (0%)
飽和脂肪酸少なめ豊富 (パルミチン酸等)
コレステロール2.0% (wt/wt)2.0% (wt/wt)
果糖 (Fructose)22.0% (kCal)22.0% (kCal)

特筆すべきは、GAN食ではPrimexショートニング(トランス脂肪酸源)がパーム油(飽和脂肪酸源)に完全に置き換わっている点です。高コレステロール(2%)と高フルクトース(果糖)のバランスは意図的に維持されています。


3. AMLN vs GAN:表現型(フェノタイプ)の徹底比較

では、餌を変えたことでマウスの病態はどう変わったのでしょうか?GAN食はAMLN食の「劣化版」ではありません。むしろ、現代のMASH患者の病態をより強力に反映しています。

① 体重増加とインスリン抵抗性(代謝異常)

  • GAN食の勝り: 興味深いことに、GAN食群はAMLN食群と比較して、C57BL/6Jマウスをはじめとする多くの系統でより早く、より顕著な体重増加(肥満)と重度のインスリン抵抗性を示します。
  • 理由: パーム油に含まれる飽和脂肪酸(特にパルミチン酸)の強力な肥満・炎症誘発能によるものと考えられています。

② 肝線維化ステージ(F2/F3)への到達スピード

  • 初期の立ち上がり(炎症・バルーニング): どちらの食餌も、投与後数週間で急速に脂肪沈着(Steatosis)と炎症細胞の浸潤を引き起こします。
  • 架橋性線維化(Bridging Fibrosis: ≧F2): AMLN食ではF2相当の線維化到達におよそ24〜30週前後を要する報告が多く、GAN食では約16〜20週で同等の線維化に到達する例が報告されています(Boland et al., 2019 ほか)。ただし到達期間は**マウス系統(C57BL/6J が主流)・性別(雄が顕著)・評価法(NASスコア/Sirius Red 面積率/コラーゲン定量)**に依存し、施設間でばらつくため、自施設で立ち上げる際は予備試験での確認が推奨されます。GAN食の方が線維化進行サイクルが速い傾向がある、というのが現状の一般的な見解です。

③ 肝細胞癌(HCC / 腫瘍形成リスク)への伸展

長期間投与(40週〜50週以上)した場合のリスクです。

  • AMLN食: 50週以上の投与で、一部の個体に肝腫瘍の発生が認められていました。
  • GAN食: 長期投与(条件により概ね36週以降〜)で肝細胞癌(HCC)が観察されることが複数の論文で報告されています(系統・性別・コレステロール含量・投与期間に依存)。「MASH由来の肝癌モデル」としてもGAN食は有用性が高いと位置づけられていますが、HCC 発生率は試験条件で大きく変動するため、目的(線維化評価 vs HCC評価)に応じた投与期間設計が必要です。

4. 私たちの見解:災い転じて福となす

現代人の食生活において、法規制により人工的なトランス脂肪酸の摂取量は世界的に減少傾向にあります。一方で、安価なパーム油や果糖(コーンシロップ等)の過剰摂取は依然として肥満とMASHの最大のドライバーです。

FDAの規制によって強制された「AMLNからGANへの移行」は、結果として「トランス脂肪酸依存モデル」から「現代人の食生活に近い飽和脂肪酸過多モデル」への進化をもたらしました。より臨床病態に近い代謝プロファイルと、より確実な線維化の進行を得られたことは、創薬業界にとって大きなプラスであったと言えます。

CROへの委託時のポイント

グローバルな非臨床CROでは、AMLN食(D09100301)の原材料供給停止に伴い、GAN食プロトコル(またはそれに準ずるCDAHFD食など)への採用が広がっています。AMLN食ベースの試験オプションは縮小傾向で、現在は GAN/CDAHFD が事実上の主流となりつつあります。 もし過去のAMLNデータを元に新規の試験デザインを組む場合は、「GAN食の方が体重が重くなりやすく、インスリン抵抗性が強く出る」点に留意し、ベースライン設定やGLP-1受容体作動薬等の用量設定を微調整することをお勧めします。



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参考文献

  1. FDA. Final Determination Regarding Partially Hydrogenated Oils. 2015.
  2. Boland ML, et al. Towards a standard diet-induced and biopsy-confirmed mouse model of non-alcoholic steatohepatitis: Impact of dietary fat source. World J Gastroenterol. 2019;25(33):4904-4920. PubMed
  3. Research Diets, Inc. OpenSource Diets data (D09100301, D09100310)
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