MASH治療薬開発マップ:2025年の買収・提携動向から読み解く業界再編
2025年のMASH領域における大型買収と提携の全体像を解説。GSK、Roche、Novo Nordiskによる大型買収、承認取得、撤退など、最新の業界動向を可視化したマップと共に詳しく分析します。
はじめに
MASH(代謝機能障害関連脂肪性肝炎)は、アンメットメディカルニーズが極めて高い領域として、製薬業界の注目を集めています。2025年は、この領域においてBig Pharmaによる大型買収が相次ぎ、業界地図が大きく塗り替わった年となりました。
本記事では、2025年におけるMASHの開発競争を、買収・提携・承認の観点から包括的に分析します。
MASH領域:Big Pharmaによる大型買収ラッシュ
主要な買収案件
2025年のMASH領域では、Big Pharmaによる大型買収が3件成立しました。
1. GSK → Boston Pharmaceuticals(2025年5月)
GSKは2025年5月、Boston Pharmaceuticalsの主力資産であるefimosfermin alfa(旧BOS-580)を12億ドルの先行支払いで取得し、最大8億ドルのマイルストーン支払いの可能性があります12。
取得資産の特徴:
- Efimosfermin alfaは、F2/F3線維化を伴うMASH患者を対象としたPhase 2試験で、肝線維化の改善とMASH消失において有意な効果を示しました34
- GSKは、MASHだけでなくアルコール関連肝疾患(ALD)を含む広範な脂肪性肝疾患(SLD)への開発を計画しており、2029年の商業化を目指しています25
2. Roche → 89bio(2025年9月)
Rocheは2025年9月、89bioを24億ドルの先行支払いで買収し、追加で最大11億ドルのマイルストーン支払いが設定されています(総額最大35億ドル)67。
取得資産の特徴:
- 主力候補品pegozaferminは、線維芽細胞成長因子21(FGF21)アナログで、中等度から重度のMASH治療を対象としています68
- Phase 3試験ENLIGHTEN-Fibrosis(非肝硬変F2-F3患者対象)とENLIGHTEN-Cirrhosis(代償性肝硬変F4患者対象)が進行中です89
- ENLIGHTEN-Fibrosisの結果は2027年前半、ENLIGHTEN-Cirrhosisの結果は2028年前半に予定されています9
3. Novo Nordisk → Akero Therapeutics(2025年10月)
Novo Nordiskは2025年10月、Akero Therapeuticsを47億ドルの先行支払いで買収し、MASHによる代償性肝硬変に対する米国規制当局の承認取得時に追加で最大5億ドルの支払いが設定されています1011。
取得資産の特徴:
- 主力候補品efruxifermin(EFX)は、FGF21アナログで「first- and best-in-class」の可能性があるとNovo Nordiskは評価しています1012
- Phase 3試験SYNCHRONYプログラムで、前肝硬変MASH(F2-F3)と代償性肝硬変(F4)の両方で開発中です1314
- 2025年1月に発表されたPhase 2b SYMMETRY試験の96週結果では、F4 MASH患者における代償性肝硬変の統計的に有意な改善が示されました15
承認済み治療薬
Madrigal Pharmaceuticals - Rezdiffra(resmetirom)
- 2024年3月にFDA承認取得、2025年8月に欧州委員会から条件付き販売承認を取得1617
- F2-F3線維化を伴うMASH治療薬として、業界初の承認薬として市場をリード16
- 2025年9月にドイツで発売開始17
Novo Nordisk - Wegovy(semaglutide)
- 2025年8月、米国FDAが中等度から進行性の肝線維症(肝硬変なし)を伴うMASH成人患者の治療薬として承認1819
- 2025年12月、カナダ保健省も非肝硬変性MASH(F2-F3線維化)の治療薬として条件付き販売承認を付与20
パートナー探索中の企業
Viking Therapeutics
- 主力候補品VK2809のPhase 2b VOYAGE試験で52週のヒストロジカルデータが良好2122
- CEOは「Phase 3試験を通じた商業化には大手パートナーが非常に有用」と述べており、提携交渉に前向きな姿勢2324
- FDAとPhase 3計画について協議予定23
撤退した企業
Gilead Sciences
- 2025年8月、Novo Nordiskとの提携(cilofexor + firsocostat + semaglutideの併用療法)を中止25
- 2024年10月には韓国Yuhanとの提携も終了26
- 線維化疾患パイプラインは「完全に空」の状態に25
業界マップ:企業間の関係可視化
以下のMermaid図は、2025年におけるMASH領域の主要な買収、承認、開発状況を視覚化したものです。
凡例:
- 🔵 青色:Big Pharma(買収企業)
- 🟢 緑色:承認取得企業
- 🔴 赤色:撤退・中止企業
- 🟠 オレンジ色:パートナー探索中企業
考察:業界トレンド分析
1. Big Pharmaによるde-risked資産の獲得
2025年のMASH領域における3件の大型買収(GSK/Boston、Roche/89bio、Novo/Akero)は、いずれもPhase 2以降のポジティブデータを持つ「de-risked(リスク低減済み)」資産の取得です。これは、Big Pharmaが初期段階からの開発リスクを避け、ある程度の有効性が確認された後に市場参入する戦略を取っていることを示しています。
2. FGF21アナログへの集中
RocheとNovo Nordiskが買収したpegozafermin(89bio)とefruxifermin(Akero)は、いずれもFGF21アナログです。この作用機序への集中は、FGF21経路が抗線維化および抗炎症効果において差別化されたメカニズムとして評価されていることを示しています。
3. 適応拡大とコンビネーション戦略
GSKのefimosfermin alfaは、MASHだけでなくアルコール関連肝疾患(ALD)への適応拡大を視野に入れています。また、既存の抗線維化薬との併用療法の可能性も探索されており、今後の開発ではコンビネーション戦略が重要になると考えられます。
まとめ
2025年のMASH領域は、Big Pharmaによる大型買収が相次ぎ、業界再編が加速した年となりました。GSK、Roche、Novo Nordiskが総額80億ドル以上を投じて有望なバイオテック資産を獲得し、市場参入を果たしました。
今後も、これらの買収資産のPhase 3結果や承認取得の動向が注目されます。特にRocheとNovo Nordiskが取得したFGF21アナログが、2027年以降にどのような臨床成績を示すかが、MASH治療の未来を大きく左右するでしょう。